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ブックレビュー「空地にて」
投稿者 : コネスト ソラミミ 2019-10-29
以前、ご紹介した「南漢山城(ナマンサンソン)」の著者で、李舜臣(イ・スンシン) が主人公の「刀の詩(칼의 노래,日本語題「孤将」)が大ベストセラーとなり、代表作となったキム・フン。 ドラマや映画の原作になっている作品が有名なので、朝鮮時代を描く時代小説の方だと勝手に思っていました。
「空地にて」は日本の植民地時代から始まり、解放独立、朝鮮戦争、ベトナム戦争、80年代までの韓国現代史を背景に、マ・ドンスとイ・ドスン夫婦、マ・チャンセ、マ・チャセの親子2代の物語です。
振り返れば歴史の大事件ですが、同時代を生きている人たちにとっては、その自覚も認識もできなかったかもしれないし、避けることもできなかったでしょう。 そう思うとやるせなさが溢れます。
家族の物語ですが、親子や夫婦、兄弟が力をあわせて苦難を乗り切ったことなど、ひとつもありません。 黙々と生きている人たち、それぞれのお話。 マ家一人ひとりが、 (後の世から見れば)大事件の渦中にどうにか生きていて、そのエピソードのひとつひとつが胸に迫ってきます。
一人ひとりの体験が事実であり(ここでは小説なのでフィクションですが)、その事実の集合体が時代であり、個人の体験を通すことにより、時代の全体が見えてくるような、視点の集中と拡大、そして想像が広がっていきます。
例えば、マ・ドンスが朝鮮戦争によりソウルから釜山に逃げ、釜山で働き口を探します。誰にでもできて、競争率の高い仕事は病院から請け負う包帯や傷病兵の軍服などの洗濯。 マ・ドンスは抽選に当たり、洗濯の仕事を得ます。
『負傷兵の軍服は中国人民支援軍や朝鮮人民軍のものが混ざっており、民間人の冬服もあった。薄い綿入れの上着やズボンもあり、名札や階級章の付いている軍服もあった。血と膿で固まり、ばさばさしていた。肉片もついていて、そこからカビも生えていた。』
『山岳部隊の血、沿岸部隊の血、中国人民支援軍の血、国軍の血、朝鮮人民軍の血、学徒兵の血、上等兵の血、大尉の血が混ざり合った水からは生臭いにおいがした。』
洗濯物の描写で戦争を描き、この血生臭い川辺で、マ・ドンスとイ・ドスンの出会いが生まれ、マ家の新たな物語が始まっていきます。
哀しみに満ちた忍耐強いマ家の人々は、成功とは程遠いですが、決して不幸ではない、 まだ物語は終わらない、と信じたい結末なので、最後まで絶望せずに読んでください。
BOOK DATA タイトル: 空地にて(공터에서) 著者: 김훈(キム・フン) 出版年:2017 価格:14,000원 ISBN: 9788965745877
韓国語上級以上。作家本人はこの作品を心の奥深くにある記憶と人生の破片を組み合わせた「小さな小説」と称していますが、大河小説級の迫力があります。軍服務が終わって大学に復学するも、経済的事情で大学を中退せざるを得なかった次男マ・チャセのエピソードはどうやらご本人の経歴のよう。学歴社会韓国で、大学中退者が就職に苦労している様子を80年代で描いていますが、今もあまり変わらない様子です。やはり、だいぶ哀しい小説かも…。でも良書です。
編集部:ソラミミ |
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