短編が好きです。
韓国語で読む場合は短い方が圧倒的に読みやすいということもありますが、ある一瞬の出来事や短い時間軸の中で起きたことが綴られていることの多い短編は、核心部分に触れるとお話が終わってしまいます。
なので、余白が結構あって、読み手が色々と考える余地が生まれるように思います。
そのポンと手渡されたような気分が好きです。
一人の作家の短編集はもちろんですが、複数の作家が参加している短編集も本当に魅力的です。
新潮社の(日本の話です)「Story Seller1~3(2009)」は綺羅星の如く人気作家が揃っていますが、当時、ほとんど読んだことのない作家も多く、新しい作家と出会うきっかけになったお気に入りのシリーズです。
そんな訳で(韓国の話に戻ります)「2020 第11回若い作家賞受賞作品集」は初めまして、の作家&作品に続々ご対面することになったのですが、いずれも劣らぬツワモノ揃いでした。
この本を薦めてくれた友人によると、力のある人が受賞することで知られている賞とのこと。
収録7作品はいずれも個性的でおもしろかったです。
・飲福(음복) カン・ファギル(강화길) *大賞受賞作
・ごく微かな光でも(아주 희미한 빛으로도) チェ・ウニョン(최은영)
・そんな生活(그런 생활) キム・ボングン(김봉근)
・違う世界でも (다른 세계에서도) イ・ヒョンシク(이현식)
・認知空間 (인지공간) キム・チョヨプ (김초엽)
・研修 (연수) チャン・リュジン(장류진)
・私たちの畜舎の歓待 (우리畜舎의 환대) チャン・フィウォン(장희원)
家庭内嫁ホラー、女性と職業、性的少数者の恋愛、子供を産むということ、思考の内と外でヒトが区分されるSF、
自動車教習所
のひとコマ、海外留学した子供を訪問する両親、がものすごく乱暴に言うとそれぞれの作品の要素です。
各作品について語れるほど、どれも物語として読み応えがありましたが、共通点としては現代韓国社会が溶け込んでいて、韓国スパイスが効いています。
「飲福」では
祭祀(チェサ、韓国の法事)
の食事の準備とそのメニューについて、「研修」ではペーパードライバーが訓練するシステムについて、 日本にはない風景や人間関係が広がっていきます。「ごく微かな光でも」は龍山の再開発反対運動によって犠牲者が出た龍山事件(2009)がちらりと通り過ぎていきます。
今更ですが、外国文学を読む楽しみのひとつは、些細なことに見える描写や物語の背景が未知の世界であることでしょうか。
日本で韓国の小説やエッセイが静かに人気を得ているという
嬉しいニュース
があります。
次に誰の作品を読もうかなと思ったときに、若い作家賞受賞作家の作品に注目してみてください。
BOOK DATA
タイトル: 「2020 第11回若い作家賞受賞作品集 」 (2020 제11회 젊은작가상 수상작품집)
著者: 강화길 (カン・ファギル)他
出版年:2020
価格:5,500원
ISBN: 9788954671156
韓国語中級以上。価格が安いです。これはお得。韓国の本は文庫がないので重くて堅くて大きいのが難ですが、こんだけ楽しめて5,500ウォン!
装丁が2種類あるらしく、書店やネットでお求めの場合、ご紹介した装丁ではないものがメインなので、購入の際にはご注意を。
私が購入した際は、装丁とお揃いのマスキングテープがおまけで付いてました。調べたところ、「町内書店エディション(동네서점 에디션)」という企画ものだったそうで、
教保文庫
などの大型書店ではない小規模書店限定版だっそうです。
でも、この本を買った私が住む町内の書店は5月に潰れてしまいました。書店員さんが作る小さい企画コーナーがあったり、割引率のめちゃいいクーポンくれたり、大好きだったのに。児童書も品揃えがある方で絵本の立ち読みもできたのに。 悲しい…。
編集部:ソラミミ