1962年から1963年の韓国・ソウルを舞台にした小説「ギター・ブギー・シャッフル」。
まず、どんな時代であったかを世界の事件から…。
1963年11月 J.Fケネディ大統領暗殺
1963年11月 ビートルズ「I Want to Hold Your Hand」で本格的にアメリカデビュー
1963年12月
朴正煕第5代大統領
就任
1963年12月 プロレスラー力道山死去
1964年10月 東京オリンピック開催
この時代の韓国・ソウルを想像できますか?
朝鮮戦争が休戦して10年。
著者いわく、時代の過渡期で想像以上に自由奔放な時代、だったそうです。
主人公は20歳のキム・ヒョン。
裕福な家庭に育ったヒョンは幼い頃から父親の影響で西洋音楽に囲まれて育ち、バイオリンの個人レッスンも受けていました。
しかし、日本の敗戦、朝鮮戦争を経て、孤児となったヒョンの人生は一転。
親戚の工場で働きながら、どうにか暮らしていきますが、毎日の食事にも事欠くひもじい日々。
唯一の楽しみは、わずかな給料で工面したお金で音楽喫茶に行くこと、
駐韓米軍
のラジオ放送でポップソング、アメリカのヒットチャートを聴くことでした。
しかし、 突然の失業、親戚から家も追い出され、路頭に迷います。
ところが偶然、米軍に出入りするバンドの荷物運びをすることとなり、ひょんなことからギターの代役を引き受けたことからバンドマンに…。
セピア色をした時代背景と共に描かれるキム・ヒョンの成長物語、青春ストーリーです。
初恋もギタリストとしての青春も甘酸っぱい感じで幕を下ろして大団円という
ストーリーはすご~く単純なのですが、ディテールが秀逸です。
この時代の韓国・ソウルが飛び出す絵本のように立体的に広がり、臭いや音が溢れてくるようなのです。
当時の芸能界は
龍山(ヨンサン)のアメリカ
第8軍のステージが最高峰とされ、そのステージにあがるための熾烈なオーディション、ヤクザ崩れの興行主とミュージシャンのギャラ争い、麻薬中毒となったミュージシャンの没落など、栄華と退廃が混在しています。
日本も進駐軍のクラブがありましたが、韓国のそれは1953年から約20年、韓国全土にあったというので、規模は相当なもの。現在の韓国歌謡界への影響もあるのではないかと想像します。
さて、米軍基地のクラブに出演するとなると、一般人とは比較にならないくらいの給料がもらえるのですが、芸能人たちは「딴따라(タンタラ)」と冷遇されます。
「딴따라(タンタラ)」はこの作品のまさにキーワードで、歌手、俳優など芸能人を蔑んでいう言葉…なのですが、日本語ではなんでしょう?河原乞食?(註:中世に役者や芸人を卑しめていう言葉)がニュアンス的に近いかなと思ったのですが、現代日本語ではぴったり嵌まる言葉を見つけられませんでした。
「딴따라(タンタラ)」の自負心、過ぎ行く時代を生きた人々と音楽への愛情が詰まったお話です。
BOOK DATA
タイトル: ギター・ブギー・シャッフル (기타 부기 셔플)
著者: 이진
出版年:2017
価格:13,000원
ISBN: 978897433127603810
韓国語上級以上。「딴따라(タンタラ)」が主人公であることからお察しの通り、
使ってはいけない韓国語
が続々登場です。また「양갈보(ヤンカルボ)」「양색시(ヤンセクシ)」など米軍兵士を相手に身売りする女性たちを指す言葉など世相を表す表現や夜間の外出禁止を意味する「통금(トングム)」など、意外に手強い語彙がたくさん出てきます。中華料理も「청요리(チョンヨリ、清料理)」ですしね。
でも、著者は30代なので、文章は現代的で読みやすいです。めげずに60年代の韓国語に触れてみましょう!私も大変勉強になりました。
全編オールディーズの名曲が散りばめられているので、音楽を聴きながら読書するのもよいかもしれません。
編集部:ソラミミ