2016年の発刊以来、韓国で100万部を超えるベストセラーとなった「82年生まれ、キム・ジヨン」。
ついに日本でも翻訳版が発売されました!
翻訳文学としては異例の7万部に迫る売れ行きとのこと。
今年に入って、著者のチョ・ナムジュ氏が来日イベントを行うなど、メディアでも注目されたので、すでにお読みになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
さて、平成が終わりを迎えることとなり、平成を振り返ることに賑やかしい日本ですが、
「その時、自分が何をしていたか?」と、しばし記憶が呼び起こされることはありませんか?
「82年生まれ、キム・ジヨン」が100万部を超えるベストセラーになったのも、「その時の自分」
を多くの韓国女性が思い出さずにはいられなかったからではないかと思います。
キム・ジヨンさんは、小説の主人公らしからぬ、これと言った特徴のない地味な人物。
小説の内容も彼女の半生を綴るものですが、拍子抜けするほど、何も事件は起きません。
いえ、事件は起きているのです。
普通の人の身に起こる、受験、就職、結婚、妊娠、出産
、
退職、育児という事件が。
「その時」キム・ジヨンさんは何を感じて、何を選択したのか。
また世間が彼女を通じて、女性の立場をどう見ているのか、ということが淡々と描かれています。
印象的なのはキム・ジヨンさんが、いつ何時も何も言わないことです。
すべての言葉を飲み込んでしまっています。
心の中ではブチ切れたりしていますが、決して口には出さないのです。
韓国人は、特に韓国女性はキツイとか、激しいとかいう印象をお持ちの方もいらっしゃるでしょうから、意外に思われるかもしれません。
しかし、韓国女性が受けている見えない圧というのは、我々外国人にはちょっと理解しがたいものがあります。
だから言葉にしない、我慢してしまう、ということは無意識のうちにあるのかもしれません。
韓国語に체념(チェニョン、諦念)という表現があります。
諦めるという意味ですが、単純に諦めるのではなくて、
『願っていたことが叶わなくて、これ以上期待しても仕方がないと希望を失って、「諦める」状態』を言います。
キム・ジヨンさんはじめ、韓国女性はそんなにネガティブではありませんし、希望を失ってはいません。
しかし、見えない圧が強すぎて、체념が習い性になってしまっているのではないかと思う節もあります。
そういう点では日本女性も同じ体験を数多くしてきているのはないでしょうか。
女性であるというだけで、悪意なく無神経に投げつけられた差別的な発言や扱いやからかいに対して、
いちいち言うのも面倒くさいし、目くじらを立てるほどでもないし、
「ま、いっか。言わせとけ」と捨て置いてきたことは、子どもの頃から数えると星の数ほどあります。
「82年生まれ、キム・ジヨン」を読むと、そんな忘れていたことを思い出してしまうようです。
この小説はフェミニズム文学であるとか、社会への告発本であるとか、いろいろな表現で評されています。
捉え方は人それぞれでしょうが、多くの女性の「ま、いっか。言わせとけ」が、未だに解決できていないというのは、やはり軽視してはいけないのではないかと思います。
BOOK DATA
タイトル: 82年生まれ、キム・ジヨン (82년생 김지영)
著者: 조남주
出版年:2016
価格:13,000원
ISBN: 9788937473135
韓国語中級以上。小説を期待して読んだらドキュメンタリーみたいで、ああ、おもしろかったという感じではなかったのですが、この小説をきっかけに考えることは色々ありました。平凡だけどリアルで、最後まで読ませてしまうストーリー性もあり、こういう手法もあるのだなという点で著者の作戦勝ちだと思います。
編集部:ソラミミ