先月の秋夕(チュソク)の折、実家に帰ったという友人が
「母がキムチを作ってくれたんだけど、味気なくて…」
と寂しそうに話してくれました。
「キムチはオンマの作ったのが最高!だったのよ。
歳を取ると味覚も変わるし、料理の勘も鈍るというのは聞いてたけど、
現実に直面するとショックで」
キムチ作りというのは大変手間のかかる重労働なので、
友人姉妹は以前からオモニ(お母さん)に「体に負担だから、やめて」と言いつづけていたそうですが、
でも、そこはお互い「オンマのキムチ」に特別な思いがあったので、
なんだかんだの恒例行事になっていたようです。
が、ついに「オンマのキムチが美味しくない」という非常事態が発生。
そして何より友人が落ち込んでいたのは、キムチの味ではなく、
自分も含めた姉妹がオモニに言ってしまった一言だったそうです。
「オンマ、全然味薄いわ。美味しくない。
足腰痛いって言ってるのに無理しちゃって、もう…(小言、小言、小言)」
どうして、ありがとうと素直に言えなかったのか。
加齢による母親の変化に配慮できなかったのか。
エッセイ「普通の存在」の中に、こんな章がありました。
엄마가 말을 걸면 왜 화부터 날까
オンマガ マルル コルミョン ウェ ファプト ナルカ
お母さんと話すとどうして腹が立つのか
母親のトンチンカンな回答やうっかりな行動に、もう40歳になろうとしている息子(著者 )が
「その話、この間、言ったじゃん!!!」
「だ~か~ら~」
とイラッとしてキレた態度になってしまうことについて、
いつも親のことを気にかけて、どちらかというと親孝行だと言えるし、
世間にも礼儀正しくあろうとしている自分が、なぜか母親と対峙すると、
こんな態度になってしまうのか?
それは違うよと言ってあげればいいだけなのに。
もう少し親切にいいように説明してあげればいいだけなのに。
なぜ、それができない?自分でもさっぱりわからない。
と書いています。
私も友人の後悔に深く共感しましたし、エッセイを読んでも、あるあると膝を打ってしまいました。
そうあるべきだ、そうしたいと思っていても、なかなか出来ないでいるのが普通の人間。
親子関係も友人関係も仕事や恋愛、結婚も。
見ず知らずの人(著者)のまとまりのつかない思いを読むうちに
共感したり、反駁したり、衝撃を受けたり、まるで心に響かなかったりしながら、
日々の自身を、人に話すまでもない雑多な事たちを、
いろいろと思い起こす時間となりました。
BOOK DATA
タイトル: 普通の存在(보통의 존재)
著者: 이석원
出版年:2009
価格:12,000원
ISBN: 9788993928037
全編読み通すなら韓国語中級以上。著者が歌手だからなのか、詩のような短い章もあり、それだけ読むなら初級の方もぜひチャレンジを。エッセイは私的な感じがしてあまり好きではないジャンルなのですが、国を越えて人間の悩みは普遍的であるという部分と韓国ならではの悩みや考え方みたいなものに触れられるなと改めて思ったので、食わず嫌いはやめるようにします。
編集部:ソラミミ