「口は災いの元」と言うように、おしゃべりが過ぎて、ついウッカリで済まされない事態を招くこともありますが、反対に「言葉足らず」で誤解を生むこともあります。
言葉は表現以上に、その場面や状況にあわせた言葉の「選択」をすることがコミュニケーションでは重要です。しかし、その「選択」は本当に難しいと思います。
「言葉の品格」は小説家イ・ギジュのエッセイ。
人格という言葉があるように、言葉にも言格というものがある…。
2017年春に出版以来人気を集め、現在も書店のベストセラーコーナーを飾る一冊です。
本書は日常生活の様々な場面や社会の出来事を入り口に1テーマ1章で構成されています。
ハ・ジウォン主演「チェオクの剣」の台詞から「共感」、
ごった返す人々の波に向かって声を張り上げる商人の言葉から「反応」、
百貨店店員のぞんざいな言葉で購買意欲をなくしたエピソードから「表現」、
オバマ・アメリカ前大統領の演説から「沈黙」、
実際に聞くことはできないはずのイ・スンシン将軍からは「傾聴」…など。
言葉の「選択」によってもたらされた結果がどうなったのか、
時にはどんな効果を得、時にはどんな失敗をしたのか、
そして言葉の持つ意味と力について記しています。
その内容は新聞評や映画や小池龍之介の著書や論語や孫子まで飛び出して、
よく言えば幅広く、悪く言えばやりたい放題で、少々無理があるのでは?とも思うのですが、
著者は至極まじめに「言葉は心だ…」と章ごとに繰り返しています。
「言」という漢字は「二回」考えて、ゆっくりと「口に出す」という解釈には、
およよ!と思いましたが、言いたいことはわからないでもありません…。
そう。言いたいことは、結構わかるのです。
意外に身に染みます。
古今東西の事例を取り上げているのは、言語は違えど言葉と人の関係は 普遍的であるから。
意思疎通の難しさやもどかしさは、人の共通の悩みだから。
言葉はたった一言で、人を生かすも殺すもできてしまうものだから。
少々くどいところがありますし、前述の引用部分も適切かどうかはわかりませんが、
言葉と人の間で起きる事象に丁寧に向き合って、ひとつひとつ投げかけてくる内容で、
読者としては、では自分はどうなのかと問うてみずにはいられなくなります。
韓国語を学習された方なら、必ず習うこのフレーズ
가는 말이 고와야 오는 말이 곱다
(行く言葉が美しければ、来る言葉も美しい)
この本を読んで、久しぶりに思い出して噛み締めたのでした。
BOOK DATA
タイトル: 言葉の品格 (말의 품격)
著者: 이기주
出版年:2017
価格:14,500원
ISBN: 9788997092772
韓国語中級以上。章ごとの導入にあるエピソードは身近な話題が多いので、さっと読むことができます。コミュニケーションが上手くなるための実用書、として期待して読むとガッカリするかも。あくまでエッセイとして。アメリカのニュースと中国の古典の引用が多いのは著者の好みでしょうね。
編集部:ソラミミ