韓国では、日本よりも街の変化に加速がついているようです。
特に、飲食店の開店閉店の速度は日本の比ではありません(体感)。カフェブームに乗っかって、雨後のタケノコのようにフランチャイズから個人まで、カフェがどんどんできていますが全国でなんと2万件。
で、1年以内に17％、3年以内で60％のお店が潰れていっているそうです。
カフェだけでなく、コンビニ、チキン屋も同じく「会社やめて自営」嗜好の韓国では人気の業種で、廃業率も似たりよったりな訳なので、故にこの3業種の入れ替わりだけをとってみても街が目まぐるしく変わっていると言えるでしょう。ちなみに韓国のチキン屋、その数、3万6,000件。世界中のマクドナルドの支店数3万5,000件より多いというところが、韓国人のチキン愛及び自営熱を感じます。
その変化の早い韓国、特にソウルの中でも最大級、最上級の変化を遂げたのが「江南(カンナム)」。
街の変化に加速度をつけたのは江南の開発が源流かもしれません。
さて江南とは、ソウル市内中心部を東西に流れる漢江(ハンガン)を境にした南のエリアのうち、汝矣島(ヨイド)よりも東の部分を指します。
その変化の歴史と背景について書かれたのが「江南の誕生」。
「へええ」とか「ほお」とか言わずにはいられないほど、コネタ(？)満載。
いや、都市開発の物語ではあるのですが、韓国好きのコネタ好きにおすすめの一冊です。
ものすごいコネタの一例を挙げると…
江南のベンベン交差点の名前の由来は衣料メーカー「BANG BANG」の社屋があったから(今もあります)。日本にポンポン山という小さな山がありますが、その由来は頂上で足踏みするとポンポンと音がしたから。それと一緒で風が吹いたらベンベンとでも鳴るのかなと勝手に思い込んでいました。一企業の名前が正式な地名になるとは「ユニクロ交差点」ができるみたいなものですね。
第一部は江南の誕生。朝鮮戦争後、南北分断国家となり、首都ソウルから北朝鮮までの国境はわずか50Km。国家の中枢機関及び住民が江北(漢江より北のエリアのこと)に集中しているリスクを分散させるため、加えて韓国の経済成長を支える大動脈となる京釜高速道路建設と市内自動車道路網を整備するため、江南が開発されていくのです。
開発当初の江南は漢江が氾濫する度に水浸しになるような土地で、一面の野原と畑、茅葺の家が点在する田舎でした。アパートを建設するも不便すぎて(2016年現在でもその現象を追体験できます。詳しくは｢マゴクの急成長を見守る日記｣)、住人が出て行ってしまうので、ソウル市は市内名門高校を江南に移転させるという策にでます。
ソウル大学や教育大学など国立大が現在、ソウル市の南部にあるのも一部同じ理由です。
韓国の住居形態として定着した高層アパート、熾烈な受験戦争は江南の産物だったのです。
第二部は江南の発展。社会インフラの整備後、ソウルオリンピックに向けた「文化的な取り組み」として、ビッグなハコモノ(芸術の殿堂、COEX貿易センタービルなど)が鳴り物入りで建設されていきます。政策によっていびつながらも急速に発展する江南の副次的現象として、ルームサロン、整形外科の急増などが紹介されているのも興味深いところ。
一方で聖水大橋崩壞事故(1994) 三豊百貨店崩壞事故(1995)、牛眠山山崩れ被害(2011)などの惨事に触れ、発展の陰に見過ごされたきたものが何かについても言及しています。
戦後の復興、発展。江南の歴史は韓国近代史の縮図のようです。
もう、とにかくドラマチックでおもしろい江南60年の変遷でした。
街歩きをしても、道路は整備されているものの、何か歩きにくいし(これにも理由があります！)、
新旧混在の江北に比べると面白味に欠けるなーと思っていましたが、
なかなかどうして、江南をちょっと見直しました。
※本文中に江南の社会背景、風俗などを垣間見える映画や小説、ドラマの紹介が多数あります。
その中から日本でも見られる(はず)作品をピックアップしてご紹介します。
映画｢江南ブルース (原題=강남1970)｣｣(イ･ミンホ、キム･レウォン主演 2015)→著者強力推薦(？)本文中にこれでもかと登場。
ドラマ｢清潭洞アリス (原題=청담동 앨리스)｣ (ムン・グニョン、 パク・シフ主演 2012)
ドラマ｢江南ママの教育戦争 (原題=강남엄마 따라잡기)｣ (ハ・ヒラ主演 2007)
BOOK DATA
タイトル： 江南の誕生 (강남의 탄생)
著者： 한종수, 강희용
出版年：2016
価格：15,000원
ISBN： 9788994142555
韓国語中級以上。小説ではないので、表現も簡潔でわかりやすいです。いわゆる「漢字語」が多いので、辞書なしでも。カバーを外すとミニ年表になっている装丁もなかなか。韓国の歴史に興味のある方は一部だけ、社会風俗に関心のある方は二部だけ、つまみ読みしても大丈夫な構成です。読む前、もしくは読んだ後、光化門(クァンファムン)の大韓民国歴史博物館の訪問をおすすめします。高速道路の建設など経済成長期の韓国について視覚的に理解できます。しかも、入場無料！
編集部：ソラミミ
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