韓国映画を見ると胸がざわざわします。韓国映画とひとくくりにするのは随分乱暴な話ですが、突き抜けたように脳天気な韓国ドラマと比較すると、韓国映画を観た後のあの何とも言えない気分はなんでしょうか。
これまた結論を出すのは性急ですが、個人的には「リアル」なのかなと感じています。
別にシリアスな主題でなくても、このストーリーで敢えてこのシーンいれますか?みたいな「リアル」の小出しは当然、社会問題を扱うような作品なら目の前に突きつけられる「リアル」に加えて、過剰に演出されたりした日には(感じかたには個人差があります)気持ちが落ち着かなくて、息苦しくなります。
そんな訳で韓国映画を語る資格もない私ですが、映画を観たあとのように胸がざわざわして仕方がなかったのが「四十四(ペク・ガフン著)」という短編小説です。NAVER(韓国を代表するポータルサイト)の書評で紹介されていたのを見て軽い気持ちで手に取りましたが、なかなかどうして、すっきりしない読後感を落としていってくれたのでした。
脱サラしてチキン屋を始めたけど上手くいかず、時間を持て余した末、百貨店のカルチャースクールで「詩の作り方教室」に通う失業中の男。アパートのエレベーターを待つのもイライラしてしょうがない精神不安定な大学教授。二度と会いたくない同級生に再会してしまい、人違いを装っていたが押し通せずに飲みに行って後悔している売れない作家。
どの短編をとっても登場人物たちはあまりにも普通の人で、それなりに頑張ってきて、そしてみみっちくて、せこい。
韓国ドラマファンの皆さん、韓国男性の「リアル」はここにあります。だからこそドラマは癒しなのか…。
それはさておき、どの作品にも共通するのが「再会をきっかけにした記憶の反芻」です。
40代たちが同級生や昔の恋人や知り合いに偶然出会うなかで、10代20代の出来事を思い出しながら現在の物語が綴られていきます。その記憶は文中の言葉を借りて言えば「一度も思い出したことはないが、一度も忘れたことがない」、澱のように心のうちに沈んでいるものです。
大人なら思わずあるあると言いたくなる平凡すぎる思い出、でも意外に傷ついてずっと抱えてしまっているもの。セコイおっさんたちの情けなくも胸が痛いお話です。
おっさんづくしかと思ったら表題の「四十四」の主人公が唯一女性(同短編に収録「私の友だち」と連作)。100万ウォンのブランド靴を買えちゃうセレブという設定には親近感は沸きませんが、ろくな男と付き合ってこなかったこととフェイスブックを通じて出会った男とのシーンは女友だちから直接話しを聞くかのような生臭さがありました。おっさんもつらいがおばさんも大変なのです。
「不惑の四十」なんて現代人にはハードルが高いかも。
よくわからないけど、もがいているうちに本のキャッチコピーにある通り「気がつけば大人(어쩌다 어른)」になっているのが人生なのではないでしょうか。
BOOK DATA
タイトル:四十四(사십사)
著者: 백가흠
出版年:2015
価格:13,000원
ISBN: 9788932027647
韓国語上級以上。韓国の40代は高校時代にソウルオリンピックを経験し、90年代はじめに大学生、さあこれからという97年にIMF国際通貨危機を迎えています。前世代とは違う価値観を持ちながらも従来の慣習や思考からはまったく自由にはなれない世代とも。語学力よりはそんな中年世代に関心が持てるかがポイント。
編集部:ソラミミ