過去に付き合っていた人の痕跡は日常生活に意外に何かしら残っているもので、友人たちと話をしたところ、その感じ方にはどうやら男女差があるようです。Aちゃんは「思い出したくもないし、思い出しただけでイラッとくる」と言い、Bくんは思い出は小箱にしまっていて「時折、そっと取り出してみてはニオイを嗅いでみる」とのこと。確かにAちゃんほどではないにしろ、私もカレーライスをよく食べるようになり、歯磨き粉をたっぷりとつけるようになり、ふと、そのきっかけを思い出して、どうでもいい自分の習慣に「あ~あ」とため息をついてしまうことがあります。
そんな話をしていて、ふと思い出したのが本日ご紹介する「男は去っても、日本語は残った(チョ・ジョンスン著)」という本です。今さらご紹介するのが申し訳ないほど、この本は出版されてから年月が経っており、初版は2010年。出版当時は韓流ブームの真っ只中、著者がシン・ミナやパク・シニャン、チョン・ウソンなどスターの日本進出のための日本語講師であったこともあり、ほんのちょっぴり話題になって、大型書店でも話題の図書コーナーに置いてありました。
本のタイトルは思わせぶりで、なかなか刺激的ですが、内容は思ったより真面目というか、ノーマルである、というかホント大したことありません。著者がいかに日本語に出会い、日本語を学び、それを生活の糧にし、日本語学院の社長として成功していったのか、という自慢の入ったサクセスストーリーです。
(もちろんタイトルから想像される通り、日本人の男と結婚して、その男がよりによって韓国の女と浮気して離婚するというお話。さらに金に困ったその男を1年くらい自分の会社で使ってやったという後日談もあり)
でも、著者が日本語を話したくて日本旅行に何度も行き、日本人の友だちを作り、日本語を覚えるための工夫をしていく過程は韓国語を学び始めた当初の自分の気持ちを思い出させてくれました。
また、日本人が人に迷惑をかけないようにと異常なまでに気遣うことや割り勘文化など、日本文化に触れて驚いたこと、苦労した体験談などを読むと、韓国でべろんと舐めたスプーンをシェアするチゲにつっこまれた時に「え~勘弁」と思ったり、初対面だと必ず年齢を聞いてくる韓国人にいちいちムカついたことを思い出し、異文化に身を置くことのツラさと衝撃はいずこも同じね、と共感したのでした。
著者が日本語を学び始めたのが90年代、話の中心が日韓共催ワールドカップ頃から冬ソナブームくらいまでのため、今読み返してみると内容が一昔前の感じがしますが、「日本人の韓国観」が大きく変わった時期であり、それを肌身で感じた著者のエピソードには興味深いものがあります。
パク・シニャンと日本進出のキーワードを考えるくだりとか、韓国男はたくましいと噂を信じた日本の女子学生からランゲージエクスチェンジ(言語交換)の申し込みが殺到した韓国人男子留学生の話とか、「韓流」を受け止めた側の視点といいましょうか、普通の韓国人から見た日本人びっくり話に笑い呆れつつ、向かい合っている目の前の相手をよく見ること、受け止めることの大切さを感じたのでした。
ともあれ、人生何事も経験しておくことが大事で、無駄にならないって結論でしょうか。
BOOK DATA
タイトル:남자는 떠나도 일본어는 남는다
著者:조정순
出版年:2010
価格:13,000원
ISBN: 9788996089001
韓国語中級以上なら辞書なしで読めます。複雑なストーリーがあるわけではないので、つまみ読み、飛ばし読みでOK。「就活」「ドタキャン」などの教科書で習わない日本語の解説コーナーもあります。
編集部:ソラミミ