我輩はコネスト特別捜査官Yoメン。
普段はブラインド越しにソウルの街を観察しているが、ひとたび事件が起きたり、気になることがあれば、どんな難題だろうが即座に現場に赴いて解決する。そんな我輩のことを人々はYoメンと呼ぶ。
さて諸君。『즐거운 인생(楽しい人生)』という韓国映画を知っているだろうか?人生に疲れた中年のおやじ3人が、死んだバンドリーダーの1人息子を加えて20年ぶりにバンドを再結成し、忘れかけていた人生の楽しみを再び手に入れる、というストーリーだ。そんな映画さながらの日本のおやじバンド(日本のバンドリーダーはご健在で韓国でも大活躍中)が、弘大(ホンデ)のライブステージに登場するという情報を事前にキャッチ!
というわけで今回は、そのおやじバンドのライブに潜入してきたので、彼らが輝いた瞬間を諸君にも届けることにしよう。
11月14日、日曜日。地下鉄2号線弘大入口駅から、黄色い落ち葉がいっぱいで深秋の雰囲気たっぷりの駐車場通りをゆっくり歩く事約15分。やって来たのは弘大のクラブ通りにある「club 打」だ。客席は出演者の家族・友人・同僚など日本人が客席の多くを占めていた。今日ここで演奏するのは、会社も年齢も違う日本人駐在員が「音楽をやりたい」をきっかけに意気投合して集まって結成したバンド「곤드레만드레(コンドゥレ・マンドゥレ)」で、日本語でベロンベロンに酔っ払った状態を指す韓国語をバンド名にするところが面白い。
この「コンドゥレ・マンドゥレ」のバンドリーダーである寺阪進氏は何を隠そう、過去に日本国内で行われた「おやじバンドフェスティバル」で優勝した経験を持つという御仁。バンドのギター・ベース・ドラムメンバーもそれぞれ見事な演奏だったが、寺阪氏はボーカルにキーボード、ギターまで操り、さらにMCも日本語・韓国語でこなすという縦横無尽の活躍ぶりだった。
途中休憩を挟んだ2部構成の舞台はそれぞれ雰囲気が異なり、1部では渋く硬派でかっこよく、2部は力を抜いてリラックスして楽しめる、というイキな構成。2部に登場した謎の外国人スペシャルゲスト(!?)、ジミー・クライネン氏が歌う「思い出の京都」や、バンドオリジナル曲の「キムチ・ブルース」は会場を大爆笑の渦に巻き込む名曲となった。この際、是非音源化してみてはどうだろうか?意外と日本人駐在員の間で流行る曲になるかもしれない。
この日のライブは“ボーダーレス・ミュージックライブ”と題され「コンドゥレ・マンドゥレ」だけでなく、韓国の実力派バンド「オッ・バンド」もライブに参加し、韓国やアメリカの名曲の数々を熱唱。男女ツインボーカルのハーモニーは見事で胸にグッと伝わるものがあった。最後は「コンドゥレ・マンドゥレ」と「オッ・バンド」の日韓バンドがステージ上で共演し、舞台には花束も届けられるなど温かなムードのなか終了。言葉が違う2つのバンドのセッションは、音楽が国境を越えた瞬間であった。客席からは「第2回ライブも開催して!」と声が飛びかうほど皆、満足げの様子で会場を後にしていたのが印象的であった。
在住者は旅行者とは違い、日々目に見えないストレスを感じ、日々目に見えるストレスと戦っており、日本にいれば簡単な趣味生活さえも持つのがなかなか難しいのが現状だ。しかし彼らは心の底から音楽が好きで、この日のために会社が終われば自己練をし、また毎週末スタジオに集まっては音楽を合わせてきたのを思うと感慨深い。異国の地でもやりたい事を思う存分楽しんだ彼らの目は、この日誰よりも輝いており、彼らから映画『楽しい人生』さながらに「今、やりたい事をやっているかい?」と語りかけられたような心境だ。
日本のおやじバンドの輝きを、この目でしかと見届け「我輩も頑張らねば」とパワーをもらった後、Yoメンは次なる任務へと出動。
事件が絶えないソウル。Yoメンが休むことはない。