親譲りの忘れん坊で子供の頃から損ばかりしている。小学校にいる時分、額にしているはちまきをよそに「はちまきが無い!」と 騒ぎ立てて(己のどうしようもなさに)3秒ほど腰を抜かしたことがある。
先日健康診断で、「将来認知症の恐れ=中度」の診断を受けたのには、流石の親譲りの忘れん坊も忘れられぬほどの 驚愕を覚えた。 最近、とみに人の名前が思い出せなくなっている。特に、似たような名前が多い韓国人の名前が思い出せなくなっているのである。
先日も、大失敗をやらかした。 久々に会う韓国人の友人Aとお酒を飲む約束をし、待ち合わせ場所に赴いたところ、Aとはもう一人別の顔があった。
Aを通して以前何度か酒宴を囲んだことのあるB君であったのだが、彼の顔を見た刹那、不安がよぎった。 いくら古ぼけた脳内のハードディスクを検索しても、大変失礼な話だが、彼の名前が出て来ないのである。
忘れん坊の私が苦心の末に、「韓国人名記憶法」として脳内のハードディスクに作り出した、 「韓国の有名人と同姓同名の知人・友人」フォルダに検索をかけてもみたが、浮かぶイメージは 「ファイルが見つかりませんでした…。」と答える「あの犬」の愛嬌のある顔のみであった。
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あの犬↑ |
久々の再会で笑顔を浮かべている内心では、冷や汗をかきかき、どうしたものかと思い悩んでいる間に目的の飲み屋さんに到着。
食事とお酒を注文し、酒宴が開始してからも、会話の頭に親しみと呼びかけの意を込めて発する枕詞である「名前」を
思い出せないがために、自然と会話は友人Aとばかり取り交わされる流れになっていく…。
AがB君の名前を呼ぶ機会をうかがったりもしてみたが、こんな時に限ってAはB君のことを「ノヌン…(お前は)」、
「ニガ…(お前が)」と親しい間柄での二人称で呼ぶばかり…。
顔を合わせる機会はそれほど多くなかったが、でたらめな韓国語を使う外国から来たアウトサイダーの私に対して、
出会った時から好意的に接してくれたB君が私は好きだった。
その好きなB君の名前が思い出せないとは…。キンガミンガ(そうなのかそうでないのかはっきりしない)な己の記憶。
焦りとやるせなさから普段よりハイペースで酒は進み、程よい酩酊状態になり始めた頃、どうしたことか突然頭の中に
1つの名前がぽ~んと思い浮かんだ。「ジェウォン(仮名)」。そう!彼の名前は「ジェウォンさん(仮名)」だったに違いない!多分…。
突然頭に思い浮かんだ名前に対する静かな興奮と、酩酊状態特有の勢い、しかしもし間違えていたらこの上なく無礼であるという
まだ冷静な自分の中での葛藤の末、「ええいままよ!」と、一旦呼んで見る決心をした。
「あ、あの・・・ふぇうぉん(わざと聞き取りずらく)さんはさぁ…。」B君の反応を窺う。横で聞いているAも含めて特に二人に当惑した様子は無い!
「でもさ、じぇふぉん(少し聞き取りずらく)さんは最近…。」さらに何度か呼びかけて見る。普通に返事をしてくれている。
決まりだ!
「ジェウォン(正確な発音で!)さん、もう飲み干したの?じゃあもう一杯…」
この瞬間、何のてらいも無く微笑みながら焼酎の杯を受けてくれた「B君」は、私の中で「ジェウォンさん」になった。
さあ、もう思い悩むことはない!今宵、この場に集まった男3人で杯を傾けながら中年トークを思う存分、繰り広げようぞ!
なあジェウォン君!
数時間ののち、楽しい週末の夜を何本かの焼酎やビールと過ごした3人の中年男子たちは、
互いに後ろ髪ひかれながらもそれぞれの帰路につこうとしていた。
まさかこの後に惨劇が起こることも知らず…。
私「じゃあ僕はこっちの方角だから一人で歩いて帰るよ!二人は別々にタクシー?」
A「いや、俺とチョンギュ(仮名)は同じ方向だから一緒に乗って帰るよ!」
私「え・・・チョ、、、チョンギュ?!」
先ほどまで摂取した体内のアルコールは瞬間煮沸をしたかのように全て一気に飛んでいった…。
いくら親譲りの忘れん坊の私でも、B君こと、ジェウォン君(仮名)ならぬ、チョンギュ君(仮名)の名前は一生忘れることが無いと思う。
編集部:tjbang