韓国、または範囲をさらに狭めてソウル、でも良い。
「ここの名物は?」と人に聞かれれば、私はためらわず「けーき」と答えるだろう。
良いけーきを出している場所を見つけようと思ったら、観光客にとっての人気スポットである明洞(ミョンドン)や、小洒落たショップが
きらびやかに街を彩る狎鴎亭(アックジョン)・カロスキルなどに行ってはいけない。
極上のけーきは、トレンドなどとはまったく無縁の素朴な住宅街にひっそりとあるものだ。
人気のない路地と路地の間をさまよう様に歩きながら、角を曲がった瞬間に出会い、そして味わうけーきは、まさに芸術品といえよう。
その計算し尽くされたかのような緻密さを持ちつつも、長い時代の流れを感じさせるどこか温かみのある形状と色の調和…。
これら至極の一品に出会う度に、私はこの国には厳しい徒弟制の中で、鍛錬を重ねて見事な技術を身につけた「けーき職人」がいるのではないかと疑わざるを得ないのである。
だが、残念なことにこれらのけーきの素晴らしさを知る人間はごくごく稀である。
日本の人々のほとんどは「韓国のけーきって日本に比べて…」と嘆くことが多いが、何かここには大きな誤解があるようだ。
韓国のほとんどの人々さえも、この国がいかに「けーき大国」であるかを自覚していないように思える。
己の仕事を天職と信じ、人々の生活にひとつの「指標」を与えんと生み出した作品たちが、評価されずにいる彼らけーき職人の忸怩たる思いは、「けーき」なだけに「計り知れない」だろう。
そんな彼らの思いと作品の素晴らしさを伝えるために、今回の編集部日記では特別に私が出会ったけーきたちを写真で紹介しようと思った。
以下に紹介するけーきたちは、どれも私が自分の足を使ってソウルの街を歩きながらみつけた珠玉の作品群である。
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計器コレクションNo1:タイトル「シンクロ」
中心の太いパイプを境に、上下の計器が左右対称で細いパイプに繋がれている様と、右から左に向かって均等に長くなりつつ並ぶ細パイプの流れは、まさに計器のスタンダードな美しさを兼ね備えているといえます。赤のガス栓が一様に開放されている様子も、シンクロナイズドスイミングを見ているような心地よい統一感を感じさせる一品です。 |
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計器コレクションNo2:タイトル「歯並び悪い」
左端のメイン太パイプと立体的に交錯する細パイプの、さらにねじりを加えて右側に伸びていく複雑な形状と、レンガに合わせて赤く塗られたカラーが職人のこだわりを感じさせる一品。無秩序な電線と計器の間でなんとか秩序を保とうとするパイプの緊張感が伝わってくるスリル溢れる作品です。 |
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計器コレクションNo3 :タイトル「疎外感」
正統派である「計器並列つなぎ」が定番の風格を感じさせますが、柱を境にさらにダメ押しのワンメーターをつけてくる遊び心が刺激的な一品。左端の計器に感情移入することでなんともいえない寂しさを感じられるのもポイントです。 |
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計器コレクションNo4:タイトル「連立住宅の片隅でガス使用量を叫ぶ。」
「吊られ型」というスペシャルなスタイルもさることながら、丸型の真っ白な計器の中心に、重量感のある灰色四角の計器を配置したセンスに脱帽の一品です。No3「疎外感」とは対照的に、包み込まれるような安心感を覚えます。 |
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計器コレクションNo5:タイトル「現代都市のナスカ」
レンガの建物を這いながら、上空に昇っていくパイプの描く幾何学的な模様は、計器作品が「ナスカの地上絵のようだ」と言われる(?)のも納得が行く一品です。長短様々のパイプたちが織り成すクラシック音楽のようなハーモニーをお楽しみください。 |
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計器コレクションNo6:タイトル「ツートーン」
建物を境に、神経質までに繊細に塗り分けられたパイプが職人気質を語る一品。左から2番目の計器のさりげない形状の違いも見逃せないポイントです。 |
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計器コレクションNo7:タイトル「真夜中は別の顔」
ソウルの路地裏が闇夜に包まれると、計器もまた昼とは別の表情をのぞかせます。ぎっしりと並んだ計器たちから伸びる重厚なパイプたちとその陰影はなんだか見てはいけないものを見たような気分にさせられます。 |
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計器コレクションNo8:タイトル「マザーボード」
メタリックとも言える、グレイ系で統一されたカラーのパイプが、2面をまたがりながら上に伸びていくという、計器職人の作品への執念を感じさせる圧巻の一品。ICチップのような夥しい数の計器たちが複雑に繋がる様は、まるで彼らがこの住居を全て制御するマザーボードの役割を果たしているかのようです。 |
註:韓国に「計器職人」なるものが存在するかは、現在の時点で不明です。
編集部:tjbang