コネスト読者の諸君、コンニャンハセヨ。私の名前はtjbang。現在、韓国生活5年目の中堅在住者だ。
今私は、極秘プロジェクトの任務を遂行中である。
この任務、誰からの指令でもない、他ならぬ私tjbangが自らに課した任務である。
知っているのは私だけ、そう、だから極秘なのである。
人はそれを「ごっこ」と呼ぶことがあるが、まあそうとも言うだろう。それは否定しない。
この任務(と書いて『ごっこ』)の内容はたったひとつ。
「タクシーの運ちゃんに自分を韓国人だと思い込ませる」ことである。
この任務を達成した際に得られる実利的なものは、はっきり言って特にない。がしかし、タクシーに乗ってから、会話上のコミュニケーションが円滑に進み、「あれ?おたくひょっとして外国人?いやぁ全然分からなかったよ。韓国人かと思った」と運ちゃんに驚かれる、ないしはその言葉さえ言われずにそのままタクシーを降りる際の達成感、そして自身が韓国でサヴァイブしていけるという自信は、在住者としてのある意味「勲章」と言えよう。
まだその経験はないのだが・・・。
この任務を遂行する際のポイントは、やはり「いかに韓国人らしく振舞うか」ということである。
立ち振る舞い、服装、髪型など気をつけるべきことはいくつかあるが、何よりも大事なのは言葉、そしてその中でも
特に「発音」である。正しい韓国語で発音さえすれば、運ちゃんたちに驚きを与え、自分自身に達成感と自信を与えられるということは
、韓国語の堪能な先達たちを見てきて私が知り得たひとつの教訓である。
そしてこの「業界」にもレベルが存在する。それはタクシーの運ちゃんから付与される「称号」によって決定されるものである。
私もこれまでに数々の「称号」をタクシーの運ちゃんたちから賜ってきた。
5年前、韓国に来たばかりの私は、大した韓国語もできず、まともな発音もできず、タクシーの運ちゃんからしてみればただの「日本人」だった。
この時は任務のことなど当然、考える余裕などはなく、自分の行き先を告げるので精一杯、「弘大(ホンデ)まで」と言って「建大(コンデ)」までに、「望遠洞(マンウォンドン)まで」と言っては「忘憂洞(マンウドン)」に、発音は似ているが全く見当違いの場所に連れて行かれかけたこともしばしばあった。
その後この大都会ソウルの荒波にもまれながら、主に韓国語のスキルアップにまい進し、成長してきた私は、
この日本よりも相当安価な交通機関を利用するたびに、任務(と書いて『ごっこ』)を遂行しようとタクシーの運ちゃんとの会話を試みながらも、完全なる任務(と書いて『ごっこ』)の遂行はなかなか叶わなかったのである。
その際に、運ちゃんから与えられた「称号」の数々…、ある時は「中国朝鮮族なの?」、またある時は「亡命者?」、
そしてまたある時は「あ!イントネーションからいって釜山の人でしょ?」などなど。
「日本人」からレベルアップはしているものの、完全なる任務の遂行にはまだまだ程遠いのであった。
今、私は盛りを迎えた週末のソウルにいる。
平日の労働の緊張感から解放され、ほどよく酩酊し次の河岸を求めて道を行き交う会社員たちとは対照的に、一滴のアルコールも摂取していない私は、家路に着くためにタクシーを待っていた。
この時間帯、まだ最終電車は残っており、タクシーを拾うのにそれほどの苦労はしなかった。
こちらに向かってくるヘッドライトに手を挙げ、停まった一台の助手席に颯爽と乗り込む。任務(と書いて『ごっこ』)の開始だ。
「○○までお願いします」
目的地を二度聞きされることはなく、静かに走り出すタクシー。OK、順調な滑り出しだ。運ちゃんは今のところ私が韓国人だと
思っているようだ。
「どの道で行きますかね?」親切そうな声色でたずねてくる運ちゃん。
慌てるな、落ち着いて正確なイントネーションで答えればそれで良いのだ。
「そうですね、あの××駅の前を通って□□交差点を右に曲がるルートでお願いします」
そう答えた刹那、運ちゃんの顔色が一瞬変わった。
しまった!気づかれたか!任務(と書いて『ごっこ』)の失敗が頭を掠める。
一呼吸おいて運ちゃんはこちらを一瞥するや、少し羨むような表情で笑いながらこう言った。
「いやぁ~お客さん今日結構飲んじゃったみたいだねえ~?ロレツ回ってないけど大丈夫?」
こうして私は「今日結構飲んじゃった、酔っ払った韓国人」という新たな称号を手に入れた。
あれほど憧れていた「韓国人」の称号ではあるが、これは何かが違うような気がする。
編集部:tjbang