韓屋の保存地区として有名な、
北村(プッチョン)韓屋マウル。内部の見学ができる韓屋が、少し前にできたと聞いて訪ねてみた。
ちょうど
昌徳宮(チャンドックン)の石垣に沿った路地の奥にある、「
高義東(コ・ヒドン)家屋」である。
高義東(1886~1965)は韓国の近現代を生きた芸術家だ。日本の支配期には東京美術学校で西洋画を学んだ経歴をもち、今では「韓国最初の西洋画家」として知られる。
そんな高義東がみずから設計し、41年間暮らしてきたのが高義東家屋だ。2000年代より補修・復元が進み、昨年暮れに一般開放が始まった。
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人通りの少ない路地の脇にある門をくぐると、さらに静けさが強まる。夏の午後で、日差しはたしかに暑いのだが、時間をまとった空間特有のすがすがしさが、なんとなく心地よい。「春谷」と漢字で書かれた看板が掲げられており、春谷とは高義東の雅号だ。
建物はマダン(中庭)を真ん中に、いくつかの部屋が囲む。玄関すぐの2部屋ほどが展示室になっており、高義東の年譜やゆかりの品々が置かれている。奥の画室は当時の様子が再現されており、キャンバスや木の椅子、画材が並ぶ様子からは、かつての空気感のようなものがしばし浮かびあがってくる。qingが訪れたときは日本語のボランティアスタッフがいて(週末にいるらしい)、親切にあれこれと説明してくれた。
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韓屋2景(写真)の近くに位置。 右に見えるのは昌徳宮の秘苑の森 |
訪れたときは、 人もおらず静かな雰囲気 |
「春谷의집(春谷の家)」と書かれた 看板が迎える |
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パンフレットの表紙が高義東の自画像。 日本語の簡単な紹介文もあり |
画室には 西洋画・東洋画 両方の画材が揃う |
再現された寝室の様子 |
「韓屋のつくり自体も見てみてください」とスタッフが指したのは、板張りの廊下だ。韓屋では本来、母屋(アンチェ)と主人の部屋(サランチェ)は別棟としてたてられるが、ここは2つの生活空間が行き来できるよう廊下がつくられたとのこと。寒さを防ぐため、韓紙のかわりにガラスがはられた窓も、この時期の韓屋に見られる特徴だという。
ひとくちに韓屋といっても、時代や生活にあわせた工夫があるんだなあと思った。知らないときっと見過ごしてしまうような、「文化」の小さなバリエーションにふれ、少し得をしたような、うれしい気分になった。
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光が差し込むマダンは とても美しかった |
ガラス張りの窓は どこかモダンな雰囲気 |
実は家屋はかつて取り壊しの話が上がっていたが、地域の人々らが反対の声を上げ、今の形に保存されることになったという。現在、地元の鍾路(チョンノ)区とともに運営にあたるのが「韓国ナショナルトラスト 文化遺産基金」だ。暮しに密着した建物や文化遺産の保存をてがける市民団体で、
城北洞(ソンブットン)の「
崔淳雨(チェ・スヌ)旧家」(下写真)も同機関が管理する韓屋だ。こちらも趣があってとてもおすすめだが、2013年9月~11月の予定で補修工事に入ってしまうそう。
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こぢんまりとした高義東家屋は、20分程度で見学できる。家屋のある苑西洞(ウォンソドン)周辺は、北村の中でも素朴な生活の雰囲気が濃いエリアで、そんな中にぽつりとセンスの良い陶磁やデザイン文具ショップがあったりと、のんびり散歩するのが楽しかった。
路地のひとつ先、カフェや雑貨店で賑わう
桂洞(ケドン)も楽しいので、暑さがひと段落したら、また訪れてみようと思っている。
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苑西洞 高義東家屋 (
位置)
・開館時間:10:00~16:00(入場は15:30まで)
・休日:月、火、旧正月・秋夕(チュソク)