日本より1カ月早く3月に新学期・新生活が始まる韓国だが、昔からの感覚は変わらないもので、1年の区切りは、今もやはり3月終わりから4月の初めのこの時期に焦点が合う。
なにか新しいことを始めたくなるこの時期。先週から、趣味でパンソリを習いはじめた。前々から興味があったのだが、ちょうど歌い手として活動する知り合いの女性が知り合いに向けて弘大(ホンデ)でレッスンを開くというので、加わらせてもらうことにしたのだ。
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パンソリは、唱い手(ソリクン)と鼓手(コス)による伝統芸能。演じ手の声と表情、身体の動きにより物語が綴られる「声と音の芸術」だ。
(→パンソリの詳細紹介)
約300年の歴史をもつパンソリは、現在ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。それだけにネットで探すと「○○保存会」のように、韓服姿の格式高そうな主催者の姿が並ぶ。映画「西便制(ソピョンジェ)」でも練習の姿は鬼気迫るもので、一般人には踏み込めない、果てしない壁が感じられる。
だが幸運にも(?)そんなイメージとは異なり、qingの講師となる知り合いの彼女は若く、芸術の街・弘大という場所柄か、アートスペースで歌ったりと自由な活動をしている。参加者もラッパーだとかアーティストっぽいメンバーが6人ほどで、独特だが、幾分気軽な雰囲気で安心した。
ちなみにレッスンにはアバンギャルドさはなく、極めてシンプルでストレート。車座にあぐらをかき、先生がまず歌う。次に生徒が真似る。1曲を短い節に分けながら、それをひたすら続けるというものだ。
ピアノのように音符があるわけではないので、音の高低や発声、拍をのばす部分など全て耳で聴いて繰りかえすことで覚える。1時間半ほどをかけて「金剛山打令 ※」という曲を歌った。金剛山の美しさ、そして鳥の鳴き声に表される哀切さが、表情豊かに登場する歌だ。
※正確にはパンソリではなく全羅地方の民謡だが、音の高低や節回しがはっきりしており、パンソリの授業によく使われるらしい
パンソリは発声のひとつひとつがはっきり力強い。それを実践するには先生いわく、まず「口を縦に開け」、「へその下あたりにある丹田(東洋医学でいう気の中心)から」「壁を突き破るように発声する」ことが大切だという。
そうはいわれても一朝一夕にマスターできるわけはなく、そもそも高音部分は声そのものが出ない。加えてqingは、歌詞中のパッチムの「ㄴ」が「ㅇ」になってしまうらしく、発音にも難しさを感じた。
だがおもいきり声を出していると運動にも似た感覚を覚え、レッスン後は心地よい疲れが身体に残った。
また急に上がったかと思ったらすとんと落ちたり、声により曲の表情を伝えるパンソリがとても面白く、帰り道にも気がつくと旋律が口をついて出ていた。
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「東洋のオペラ」とも称されるパンソリ |
qingの先生は新しい試みを行なう 新鋭の歌い手 |
練習に使ったパンソリ歌詞 (数字の「1」は拍を開けるところメモ) |
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真剣に習ってもマスターに10年はかかるというパンソリ、週1回の趣味ではパンソリの「ㅍ」にも到達かもしれないが、今はとりあえず「시작이 반이다(始めたら半分は行なったと同じ)」ということわざを味方にしたい。
そして1)「チョッタ(いいぞ)」など合いの手を入れられるようになる 2)「春香伝(チュニャンジョン)中の名演目「サランガ(愛の歌)」を歌う」という密かな夢を叶えるまで、楽しく続けられたらと思う。
もちろん公演を聴くだけでも面白い。数時間の物語を歌いきる「国立劇場 パンソリ完唱」など本格的な舞台から、外国人向けの伝統公演「貞洞劇場 Miso(美笑)」や「三清閣プレミアムコンサート滋味」の一部プログラムでもパンソリが聴ける。興味のある人は一度、その音の世界に訪れてみてほしい。