※この文章は半フィクションです。
それは木枯らしが身に染みるほど寒い冬の日だった。迅速かつ正確かつ面白くて役に立つ情報を読者に届けようと、日々邁進しているコ○スト本社(ソウル市△×区)にて事件は起こった。
昼時も過ぎ、ちょうど小腹がすき始める午後5時前後。一人のスタッフCが提案した。
「お腹もすいたことだし、僕たちの積立金でケランパンでも買って食べようではないか!」
積立金とは、彼らスタッフが遅刻1回1000ウォンの罰金によって貯まったお金のことである。情けない話ではあるが、これが意外に速いペースで積み立てられていたのである。
ちなみにケランパンとは卵の入った大判焼きのようなものだ。しかし、コ○スト本社近くの市場で売られているケランパンは見た目もちょっと独特で美味。彼らの格好のおやつとして定着していたのだった。
もちろん、腹をすかせた野良犬の集まりのようなコ○スト編集部において、このスタッフCの提案に反対する者など皆無だ。そして、新入女子社員Kと中堅女子社員Hがお遣いに出ることとなった。
「いってきま〜す」-明るい声で意気揚々と出かけた二人。
「いってらっしゃ〜い」-そんな二人を温かく送り出すスタッフたち。
この時の彼らは、自分たちの身の回りで起きるおぞましい事件のことなど、知る由もなかった。
「ただいま〜」という声と同時に、部屋のドアが開く。そこにはホックホクのケランパンを抱えたKとHの姿が。一人一個ずつ分け与え、全員が無我夢中でケランパンをほおばる。腹をすかせた野良犬集団にかかれば、瞬間移動さながらのスピードだ。
「おいしかったね〜」
全員が満足した表情を浮かべ、それぞれの仕事に戻ろうとしたその時に異変が起こった。
異変に気づいたのはベテラン社員Mだった。
「あれ、Kさんなんで1個残ってるの?」
残っているはずのないケランパンが、新入社員Kのデスクに置かれているのを、目ざといMが発見したのだった。
「あっ、これは・・・」 言葉に詰まるK。
「どういうことなの?」 問い詰めるM。
しばし部屋の温度が下がったのを記者は見逃さなかった。
事の真相はこうだ。
お遣いに出たKとHだったが、あまりの大量購入に店側が2個サービスしてくれた。そうなると当然、この2個を巡って新たな衝突が生じることは、火を見るより明らかだ。
そこで悪知恵の効くHがKをそそのかした。
「Kちゃん、サービスの2個はなかったことにして私たちで食べちゃおう」
新入りのKが先輩Hに逆らえるわけがないのを見越しての発言だったと推測される。
しかし証拠の隠滅に失敗したKが、上司のMに見つかってしまったというわけだ。
MがHを問いただすと、Hは「チッ」と舌打ちをした。
Kはこれで、上司Mと先輩Hとの間で完全に板ばさみとなったのだ。
後日談として、先輩Hが新入りKを駐車場に呼び出したとか何とか・・・
中堅社員Hを完全に信頼していた上司Mの心の傷も計り知れない。
こうして上司M、中堅社員H、新入りKの奇妙な女三角関係が出来上がった。
韓国版「大奥」とでも言おうか。
それを一人ほくそ笑みながら観察していた記者K。
食べ物の恨みとは、女の闘いとは、いつの時代も国境を越えて行われるものである。
編集部:記者K